Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
眩い光が僕の目を焼いた。最後に見たのは、無数の小さな白い粒。ああ、またやった。睡眠薬のオーバードーズ。もう何度目だろうか。意識が遠のく。
僕は薄暗い部屋のベッドで目を覚ました。いつもと違うのは、隣に誰かがいること。目をこすってよく見ると、そこにはメガネをかけた、今時の女子中学生がいた。
すると、彼女はメガネをクイッと押し上げ、僕をジロリと睨みつけた。「やっと起きた?遅いよ。あんたが私をオーバードーズしたせいで、こんな姿になっちゃったじゃない!」
彼女は怒ったように言い放った。意味がわからず、僕はただ呆然と彼女を見つめるしかなかった。
「私だよ。私!いつもあんたが飲んでる、あの睡眠薬!擬人化ってやつ?本当に起きるんだね、こういうの…」彼女は僕の理解を超えたことを口にした。
僕は彼女の言葉を理解するのに時間がかかった。擬人化…?まさか、冗談だろ?しかし、目の前の彼女は確かにそこにいる。存在感がある。
「そんな顔しないでよ。一番びっくりしてるのは私なんだから!いきなりこんな姿になって、あんたの愚痴を聞かされる羽目になるなんて!」
彼女はぶつぶつと文句を言い始めた。彼女の言葉を聞いているうちに、僕はようやく事態を把握し始めた。僕がオーバードーズした睡眠薬が、本当に擬人化してしまったのだ。
彼女は自分のことを「レム」と名乗った。睡眠薬の擬人化だから、名前の由来はレム睡眠から来ているらしい。彼女は僕がオーバードーズするたびに、僕の夢の中に現れて、色々なことを教えてくれた。時には、僕の心の奥底にある孤独や不安を指摘することもあった。
「ねえ、どうしてそんなに睡眠薬に頼るの?学校にも行かないで、毎日毎日、部屋に閉じこもって…」レムは僕の目を真っ直ぐ見て聞いてきた。
僕は言葉に詰まった。僕はいじめにあっていた。毎日毎日、悪夢のような日々。学校に行くのが怖くて、友達も信じられなくて、どんどん孤独になっていった。
それを紛らわせるために、睡眠薬を飲んだ。最初は眠るためだったけど、だんだん現実逃避のために飲むようになった。オーバードーズも、現実から逃れるための一つの手段だった。
「そんなの、逃げてるだけだよ。現実から目を背けても、何も解決しない。それに、私をこんな姿にして…あんた、責任とってよね」
レムはそう言って、プイッと顔を背けた。責任…。僕は、レムに対して、一体何をすればいいのだろうか?
ある日、レムは僕に自分の過去について語り始めた。レムは、元々は人間の感情を鎮めるために作られた薬だった。しかし、オーバードーズによって、人間の感情を増幅させる副作用が生まれてしまった。
「私は、人間の悲しみや苦しみを吸い上げて大きくなった。だから、私を飲む人は、一時的に楽になっても、最終的にはもっと苦しむことになるんだ…」レムは悲しそうな表情で語った。
僕はハッとした。僕が苦しんでいるのは、レムのせいなのか?でも、レムがいなかったら、僕はもっと早く壊れてしまっていたかもしれない。
「ねえ、レム。君は僕にとって、必要な存在だよ。確かに、僕は君に依存しているのかもしれない。でも、君がいてくれるから、僕はまだ生きていられるんだ」僕は正直な気持ちをレムに伝えた。
レムは少し驚いたような顔をした。「そう…?でも、あんたのためには、私はいない方がいいんだよ。私は、人間の依存心を利用して生きているんだから」
「それでも、僕は君が必要だ。だから、君を助けたい。 君の悲しみや苦しみを、僕が分け合いたい」
僕はレムの手を握った。レムの手は、冷たくて震えていた。
それから、僕とレムの関係は少しずつ変化していった。僕は、いじめに立ち向かうために、少しずつ行動を起こし始めた。学校の先生に相談したり、親に話したり、カウンセリングを受けたり…。
レムも、僕を応援してくれた。僕が辛い時は、そっと寄り添ってくれた。レムの存在が、僕の心の支えになった。
ある日、僕はレムに告白した。「レム、僕は君のことが好きだ。君が睡眠薬だとしても、僕は君のことが大切だ」
レムは顔を赤らめて、目を伏せた。「ばかね。そんなこと言わないでよ。 私は睡眠薬だよ?人間と薬が恋愛なんて、ありえないでしょ」
「そんなことない。君は、ただの薬じゃない。僕にとっては、かけがえのない存在だ。 君は、僕の苦しみを理解してくれるし、僕を支えてくれる。 僕は、君のことが本当に好きなんだ」
僕は、レムをそっと抱きしめた。レムは、最初は戸惑っていたけど、やがて僕の背中に手を回した。
それから、僕とレムは、一緒に未来へ向かって歩き始めた。 僕は、いじめを克服し、学校に復帰することができた。友達もできて、楽しい学校生活を送っている。
レムは、相変わらず僕の側にいてくれる。彼女はもう、ただの睡眠薬じゃない。 僕にとって、なくてはならない存在だ。
僕たちは、手をつないで、夕焼け空を見上げた。夕焼けは、僕たちの未来を照らしているように見えた。
オーバードーズから始まった奇妙な出会いだったが、それは僕にとって、人生を変えるきっかけとなった。擬人化された睡眠薬との恋。それは、僕の心の奥底にあった光を見つける物語だった。